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商品説明
松菊木戸公伝・上下・複製版/桂小五郎(木戸孝允)波瀾の生涯を集大成/木戸孝允を通してみる明治維新史・前人未到・宝庫の山/定価14000円
昭和54年 上下2冊 2184ページ 重さ約3.12kg 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。
木戸孝允を通してみる明治維新史
札幌学院大学教授
北海道大学名誉教授・田中彰 前人未到、宝庫の山
東行記念館学芸員・一坂太郎
歴史には「もし」は禁句だが、「心理学的歴史分析の試み」として「パーソナリティ」の役割に照明を当てたアメリカの日本近代史家A・M・クレイグ教授(ハーバード大学)は、つぎのような興味深い仮説をたてている。
もし、木戸孝允と大久保利通が幕未の慶応3年(1867)に暗殺されていたら、第一に、大久保以外に誰が西郷隆盛をあつかいえただろうか、第二に、木戸と大久保がいなくて、薩長の協カが維持されたかどうか、第三に、この二人がいなかったら、いわゆる征韓派は敗れただろうか、というのである。木戸と大久保の明治維新史に果たした役割は大きかったのである。しかし、木戸と大久保とは性格的にはまったく異なる。大隈重信の語るところによれば、木戸は正直・誠実な人であり、雄弁であり、寄才縦横であり、詩も作れば歌も詠み、遊ぶことも騒ぐことも好きで、陽気だった、という。これに対して、大久保は辛抱強く、感情を顔色にあらわさず、他人の説はよくきき、いったん決断すると、百難を排しても遂行する意思の強さをもっており、木戸と違って寡黙で無骨無枠だった、というのである。
事実、木戸の日記を読むと、そこには喜怒哀楽を読みとることができ、大久保のビジネスライクな日記とは対照的なのである。
このたび復刻される『松菊木戸公伝・上下』は、妻木忠太を編纂主任にし、ベテランの編纂委員が編集・執筆に当たり、幕未天保期の木戸の誕生から明治10年(1877)の彼の没までを、逸事をも含めて編年的に詳細に記述したもので、木戸の伝記の基本といえるものである。「緒言」を寄せた侯爵井上勝之助が、「本書の記述は勉めて批判を避け文飾を去りて其事実を直叙し、専ら公の生涯に於ける深遠なる才量と偉大なる勲業とを広く世に伝へんことに留意したり」というゆえんでもある。
木戸と大久保は、ともに明治初年の岩倉使節団の副使として米欧を回覧したが、明治期のある一文は、「大久保は元来保守的の人にして木戸は改進的の人なりしが、欧米より帰り来るや、遽に豹変して大久保は改進の人と為り、木戸は却て保守的の人と為れり」と述べる。
それは大久保と木戸の、当時の先進諸国への見方のちがいと日本に対する教訓のたて方の相違を示している、といってよい。
このことは前述した二人の性格とからんで、明治維新を起点とする日本近代化へのあり方を、為政者としてどう考えたか、ということでもある。このように、木戸という人物を通して、日本近代化の一大変革としての明治維新をみようとするとき、本書は絶好の書であり、木戸孝允幕末維新史ともいえる書なのである。 幕未の頃、土佐脱藩の志士坂本龍馬が周旋し、長州下関の地に商社を創ったという話がある。薩長両藩をスポンサーに、関門海峡を封鎖し、船の積荷を調べ、西日本経済の主導権を握ろうとしたというのだ。
なかなか興味深い話だが、この商社の具体的な活動についての記録は、どこにも出てこない。平尾道雄氏(故人)の古典的名著『坂本龍馬海援隊始未』(昭和4年)にも、「果たしてどれだけ実効を収めたものか、詳でない」と、記述されているのみである。
ずっと後年、平尾氏が同著を全面的に増補改訂して発表した『龍馬のすべて』(昭和41年)でも、商社の部分に関しては「はたしてどれだけの成果をあげたであろうか」と、依然、謎につつまれたままなのである。
ところが、この謎は、龍馬研究家たちの知らないところで、とっくに解明されていたのである。最近、私は、龍馬についての本を書く機会があった。商社の件につき、松浦玲先生の論文にヒントを得た私は、(もしや…!)と思い、「松菊木戸公伝」(昭和2年)を書架から引っぱり出して、目を通した。
すると、上巻の729頁以下に、商社の顛未が詳しく出ているではないか。それによれば、諸般の事情から下関に商社を創ることを藩主毛利敬親が許さなかったとある。そして、桂小五郎(木戸孝允)を薩摩まで遣わし、断ったのだという。敬親は「たとえ両藩の輯睦を破るも決して賛同すべからず」と、強硬に反対したとまで、記述されている。
つまり下関の商社は、「成果」どころか、企画の段階で消えてしまっていたのだ。これでは活動記録など、残るはずがない。
こうした事例を見ると、『松菊木戸公伝』は、70年も前に刊行された、維新史の基本文献のひとつでありながら、意外と丁寧に読まれ、活用されていないのではないかと思えてくる。恥ずかしながら私も、神田神保町の吉書店で何年か前に入手はしたものの、充分に活用しきれないでいる。
言い訳がましいようだが、菊判2冊、計2400頁余りという大冊は、書架の飾りにはもってこいだが、いざ読むとなると、少したじろいでしまうのは、私だけではあるまい。
だからこそ『松菊木戸公伝』には、前人未踏の宝の山的な魅力が、まだまだ残されていると言える。それは木戸孝允の伝記のみならず、明治維新史のあらゆる分野にわたっているはずだ。復刻によってさらに普及し、活用され、維新史研究が発展することを、願ってやまない。
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